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福岡地方裁判所 昭和51年(ワ)72号 判決 1977年11月15日

原告

中並宏記

被告

下石寿夫

ほか二名

主文

1  被告らは各自原告に対し金六五六万三、六二〇円うち金五九六万三、六二〇円に対する昭和五〇年三月二一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告その余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを五分しその一を被告らの、その四を原告の負担とする。

4  この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一原告の求める裁判及び主張

(請求の趣旨)

一  被告らは各自原告に対し金三、六〇五万四、八二四円及びこれに対する昭和五〇年三月二一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

(請求の原因)

一  原告は、昭和五〇年三月二〇日午後五時四五分ころ、福岡県嘉穂郡稲築町岩崎一〇九七番地先横断歩道を通行中に、被告下石寿夫運転の大型貨物自動車にひかれて負傷した。

二  被告下石は前方をよく注意していなかつたため原告をひいたのであるから、不法行為者として原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

被告会社は加害自動車の所有者として自賠法三条により、また被告下石の雇主で、会社の業務執行中の事故であるから民法七一五条一項により損害賠償責任がある。被告畑江は、被告会社(資本金一五〇万円)の代表取締役で雇主会社に代つて事業を監督しているものであるから、同条二項により損害賠償責任がある。

三  原告は本件事故により左下腿両骨骨折、左足剥皮創兼同第一中足骨骨折、シヨーバー氏関節脱臼、足背動脈断裂、筋損害の傷害を受け、昭和五〇年三月二〇日から同年四月四日まで一六日間西野外科病院に入院し、同年四月五日から六月一六日までのうち、三四回同病院に通院し、後遺障害として左下腿中央部以下切断欠損があり、自賠責保険で五級と認定された。

四  原告は本件事故により次の損害を蒙つた。

1 入通院慰藉料 五〇万円

2 後遺症慰藉料 七五〇万円

3 逸失利益 三、〇八七万九、五二四円

原告は、昭和四四年七月二日生まれで、事故当時五歳の男児であるところ、

(一) 昭和四九年賃金センサス、男子労働者企業規模計、学歴計、全年齢平均年間給与額二〇四万六、七〇〇円であり、昭和五〇年は前年より一〇パーセント以上の賃金上昇があるから、基準平均年間給与額は二二五万一、三七〇円となるところ、労働能力喪失率一〇〇分の七九であり、労働可能年齢一八歳より六七歳までとしてその新ホフマン係数一八・〇二四五を乗じたものが逸失利益である

(二) また一八歳までの養育費は、年間一二万円として、その新ホフマン係数九・八二一一を乗じたものが、その額である。

(三) 右(一)から(二)を差引いた差額が冒頭の金額である。

4 受領した自賠責保険金は入通院分慰藉料二〇万四、七〇〇円、後遺症分五九〇万円、合計六一〇万四、七〇〇円である。

5 右1ないし3合計金より、4を差引けば、三、二七七万四、八二四円となる。

6 弁護士費用 三三〇万円

7 損害金総額 三、六〇七万四、八二四円

五  よつて被告ら三名に対し、各自右損害金総額とこれに対する事故の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いを求める。

第二被告ら三名の求める裁判

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第三被告下石の答弁及び主張

(請求の原因に対する答弁)

一  請求原因一は認める。

二  同二は被告下石に過失があり、損害賠償の責任があることは否認する。

三  同三は後遺障害の部分は不知、その余は認める。

四  同四は受領した自賠責保険金は認めるが、その余は争う。

(主張)

本件事故は被告の車に原告が右横からとび込んだために起つた。原告が右側の車道の外に立つているのを三〇メートル手前で認めた被告は、警笛をならして警告しその前を通過しかけたとたんに、サイドミラーに何やら影が写つたので、急ブレーキを踏んで左側に停車した。原告は被告の走行死角に入つてからとび込んだのである。

第四被告畑江、同会社の答弁及び主張

(請求の原因に対する答弁)

一  請求原因一は否認する。

二  同二は否認する。但し、被告下石が事故当日貨物自動車を運転して事故現場を通過したこと、被告会社が右自動車の保有者であり、被告下石の雇主であることのみは認める。

三  同三及び四は否認する。

(主張)

一 被告下石は貨物自動車(以下被告車という)を運転して事故現場にさしかかり、交差点手前一二メートルの地点にきたとき、交差点先横断歩道右側端付近歩道上に原告らしき男児が佇立しているのを認めた事実、横断歩道通過直後に原告が受傷した事実はあるが、被告車が原告をひいたかどうかわからない。

二 かりに被告車の後部車輪で原告の左足をひいたとすれば、原告がとび出して横断を始めたため本件事故は発生したのであるから、右のような横断方法は原告の過失によるものか、原告に注意能力がないとすればその監督義務者である両親の監護義務け怠によるものであるから、損害賠償額算定についてはこれを斟酌すべきである。

第五証拠〔略〕

理由

一  成立に争いのない甲第一ないし第七、第一一ないし第一六、第一八号証及び証人栗田文治の証言並びに被告本人下石寿夫尋問の結果(後記措信しない部分を除く)によると、被告下石が昭和五〇年三月二〇日午後五時四五分ころ作業を終えて帰宅途中、普通貨物自動車を運転して国道二一一号線(幅員八メートル、うち車道部分六・三メートル)を飯塚市方面から嘉穂町方面に向け時速約三五キロメートルで進行し、嘉穂郡稲築町岩崎一、〇九七番地先にさしかかり、前方横断歩道右側端に佇立している原告(昭和四四年七月二日生)を約一四メートル手前で発見したが、同人が横断することはないものと軽信し、減速してその動静を注視することなく、そのままの速度で進行した過失により、原告が横断歩道を走つて渡り始めたのを約七メートル手前で発見し、急制動をかけたが間に合わず、自車を衝突転倒させ、原告にその主張のような傷害を与え、原告はその主張の如き入通院をなし、左下腿中央部以下の切断による欠損により後遺障害五級の認定を受けたことが認められる。被告本人下石寿夫尋問の結果、証人上田邦昭の証言中右認定に反する部分は前掲証拠に照らして措信せず、他に右認定に反する証拠はない。

二  損害額について検討する。

1  慰藉料

原告の治療期間、後遺障害等に照らして、その慰藉料は七〇〇万円をもつて相当と認める。

2  逸失利益

昭和四九年賃金センサス男子労働者企業規模計、学歴計、全年齢平均給与額が二〇四万六、七〇〇円であり、昭和五〇年は前年より一〇パーセント以上の賃金上昇があつたことは原告主張のとおりであると認められるから、基準平均年間給与額は二二五万一、三七〇円となるところ、全年齢の平均賃金を基準とする中間利息の控除はライプニツツ方式を用いるのが相当であり、労働能力喪失率七九パーセントであり、労働可能年齢は一八歳から六七歳までであるから、当時五歳の原告のライプニツツ係数(六歳から六七歳まで六二年間の係数一九・〇二八から、六歳から一八歳まで一三年間の係数九・三九三を差引いた)九・六三五を用いて計算すると、その逸失利益は一、七一三万六、六四〇円となる。

2,251,370円×0.79×9.635=17,136,640円

3  右1及び2の合計は二、四一三万六、六四〇円となるところ、原告は事故当時年齢五歳九か月であり、事理弁識能力は備えていたと認められるところ、前記認定のとおり被告車が接近しつつあるのに、横断歩道にとび出して渡り始めたという過失があり、その過失割合は五割とするのが相当であるから、これを相殺すれば、原告が本件事故により受けた損害(参護士費用を除く)は一、二〇六万八、三二〇円となる。

24,136,640÷2=12,068,320円

しかして自賠責保険より六一〇万四、七〇〇円を受領したことは原告の自認するところであるから、これを差引くと五九六万三、六二〇円となる。

4  弁護士費用

右損害額、事件の性質等を勘案すると、相手方に負担さすべき弁護士費用は六〇万円をもつて相当と認める。

5  よつて損害金総額は六五六万三、六二〇円となる。

三  被告会社が被告車の保有者であり、かつ被告下石の雇主であることは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一九号証及び被告本人畑江富男尋問の結果によると、同被告は被告会社に代つて事業を監督しているものであることが認められるから、被告らはいずれも損害賠償責任がある。

四  よつて原告の本訴請求中、六五六万三、六二〇円及びうち金五九六万三、六二〇円(弁護士費用を控除したもの)に対する事故の翌日である昭和五〇年三月二一日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 緒方誠哉)

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